2005年12月1日、栃木県今市市(現日光市)の小学1年生の女児が行方不明となり、翌日、茨城県の山林で、遺体となって発見されました。
 事件発生から約8年後の2014年、警察は勝又拓哉さん(台湾生まれ、当時31歳)を商標法違反(偽ブランド品の販売等)、銃刀法違反(ナイフの収集)の疑いで別件逮捕。その勾留中に本件の取調べをおこない、ウソの自白をさせ起訴しました。
 2016年4月、一審、宇都宮地裁は、女児を拉致してわいせつ行為をし、ナイフで刺して殺害したあと遺体を山林に遺棄したとして、無期懲役の判決をします。18年8月、二審の東京高裁は、自白は信用できないとして一審判決を破棄しました。しかし、殺害日時や場所を広げた訴因変更を認めた上で、情況証拠によって犯行を認められるとして、あらためて無期懲役判決を出しました。弁護団は最高裁に上告しましたが、2020年3月4日付けで、最高裁が上告を棄却しました。

■事件の特徴
 事件の特徴は、①勝又さんの犯行を裏付ける物的証拠がない、②有罪を支える証拠は「自白」と状況証拠ということです。
 有罪判決も状況証拠だけでは有罪にできないことを認めています。しかし、「自白」は信用でき、状況証拠と「自白」をあわせれば犯人と認定できるとしました。裁判員裁判では、別件逮捕による長期勾留と「自白」の任意性が問題となり、取調べの録音・録画テープが証拠として採用され法廷で流され、この「自白」の映像が有罪の決め手とされました。

■判決の問題点

(1)「自白」と客観的事実が不一致
 「自白」では、①女児の両手両足をガムテープで縛った状態で立たせ、女児の右肩を左手でつかみ、正面から右手で一気に10回刺した、5回くらい刺したとき女児は崩れ膝立ちになったが刺し続けた、②その後女児を投げ捨てた、③凶器や軍手などを帰る途中で捨てた、とされています。
 しかしこの犯行態様は、被害者の刺創や現場の状況と矛盾します。

●被害者は立っていることが困難
 女児は、大量に出血し死亡していることから、刺された後に意識が低下して体勢を崩し倒れてしまう、と考えられます。膝立ちになった後も肩をつかみ体勢を維持させることは困難で、それだけの強い力で肩をつかめば痕が付くはずですが、そうした痕はありません。

●殺害方法と血痕との矛盾
 「自白」どおり、立った状態で被害者を刺した場合、下の方(足の方)に流れた血痕があるはずです。しかし遺体には、身体の上方や左右に流れる血痕はありましたが、下の方に流れる血痕はありませんでした。これは、寝かせた状況で刺したことを示すものです。

●血液の量と殺害場所との不一致
 鑑定結果から少なくとも1㍑の血液が流れ出たと考えられます。しかし、現場には被害者の血痕は微量で、弁護団の実験から地面に血が染み込まないことが明らかになりました。したがって、どこか別の場所で殺害して遺体を遺棄したと考えられます。

(2)「自白」を裏付ける証拠がない

●「わいせつ行為」の痕跡はない
 「自白」では、当初「強姦した」、その後、「被害者の陰部や胸を触った」「キスをしたり、自分の陰茎を握らせ、射精した」と供述しています。しかし、被害者にはわいせつな行為を受けた痕跡はありません。「自白」通りであれば遺体に付着しているはずの勝又さんのDNA(精液、汗、唾液、皮膚片など)は検出されていません。

●第三者の存在の可能性
 被害者の頭に貼り付いていた粘着テープから、勝又さんのDNAは出ず、第三者のDNAが存在する可能性が出ています。

(3)「秘密の暴露」がない
 「自白」には、真犯人にしか知りえない「秘密の暴露」がありません。凶器を捨てた場所、血で汚れた手を洗った公園などは不明のままで、凶器や、女児を脅したとされるスタンガン、返り血をあびたという衣服なども発見されていません。

(4)「自白」に任意性はない
 今市事件では、「自白」後の取調べが録音・録画され、それが有力な証拠とされました。しかし、この「自白」の映像には、警察に心身共に痛めつけられて人格的に屈服させられ「自白」に至る過程は録画・録音されていませんでした。
 勝又さんは別件逮捕後、警察で「殺してゴメンナサイ」と50回言わされ、人格を否定する暴言、顔をビンタされる暴行を受け、「認めれば罪が軽くなる」と利益誘導にわたる取調べで自白を強要されました。
 一審判決が根拠とした録画映像は、捜査機関に都合の良い取調べ場面だけが録音・録画されるという不当なものです。

 2020年3月4日付で最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)は、今市事件の被告人である勝又拓哉さんが殺人罪に問われた今市事件について、上告棄却の決定をした。私たちは、国民の常識とはかけ離れた信じがたい暴挙をした東京高裁の判断を、最高裁判所は、誤った判断を正さず、国民の人権と自由を守るという期待される職責を放棄した。私たちは、上告棄却という不当決定をした最高裁判所にたいして、強く抗議します。
 今市事件への全国からの無罪を求める署名、勝又拓哉さんへの激励など大きなご支援ありがとうございました。今後守る会は、勝又拓哉さん、ご家族の強い意志を受け、再審請求を検討しているところです。

  • 激励先

    〒264-8585 千葉市若葉区貝塚町192 千葉刑務所 勝又拓哉 様

    ※刑務所名は記載しなくても届きます
  • 連絡先

    えん罪今市事件・勝又拓哉さんを守る会

    〒320-0055 栃木県宇都宮市下戸祭1-2-4 赤羽ハイツ1階 八幡山法律事務所内
  • リーフレット

    今市事件は冤罪です(一審判決批判)

    今市事件は冤罪です(二審判決批判)
  • パンフ

    今市事件は終わっていない―誤った有罪判決を斬る

    画像の説明


    2020年3月に最高裁で無期懲役が確定した栃木・今市事件。10月24日に開かれたシンポジウム「今市事件は終わっていない―誤った有罪判決を斬る」の発言をまとめた冊子が発行されました。PDFが公開されいますので、ご覧ください。冊子は1冊100円、10冊以上は80円です。お申し込みは守る会まで。

    電話:070-4494-6116(橋本)FAX:028-600-5107